メンターが遺してくれたこと

仕事で、闘病の併走を通じて、教えとして遺してくれたことをグリーフケア兼ねて綴ります

治療法は主体的に決めるべき

治療法の最終決定は自分でした、と患者さんが思うことは、後々後悔しないためにも大切なポイントです。

 

がん告知を受けると、本人は勿論のこと、家族や付き添う人達も精神的に大きなショックを受けます。

今まで大きな病気にかかったことなんてなかった!という人だと、なおのこと病院やお医者さんとの付き合い方だって知らなかったりします。

 

そんななかで、途端に考えないといけないことや決めないといけないことは増えるし、気持ちが落ち着く間もなく、怒濤の勢いで色んなことが降りかかってくると、つい思考停止してしまいがちです。

代表的なのが、治療方法について、主治医が言うとおりにします、と何も考えずに決めてしまうことかなと思います。

 

 

色々考えた上で、主治医の治療方針で、というのは良いです。

基本的に、病院では一番治療して治る確率の高い方法(=標準治療)をお医者さんは勧めてくださるからです。

それなら、何もわからないし、とりあえず主治医の言うとおりにしておけばいいか、は少し危険です。

 

というのも、治療方針を考える際、実は

①治療方法でどの治療方法が一番効果があるか(科学的根拠を基にした正解があり医師が教えてくれる)

②どの治療方法が一番本人が満足するか(正解がなく自分で考えるしかない)

という2つの問題が絡んでいます。

 

病院で主治医が教えてくれるのは基本的に①のみです。

とても親身な先生や以前から知り合いの先生が主治医とかだと、②についても一緒に考えてくれるかもしれませんが、初めての先生、という場合は基本①のみについてしか主治医は伝えようがない、そのことを私達はわかっている必要があります。

 

何故なら上記2つの問題の結果を引き受けるのは全て自分だからです。

①の答えをきいて、②については忙しさや混乱のなかで思考放棄してしまうと、病が重ければ重いほど、大きな岐路である可能性も高く、後から後悔する可能性が高まります。

大変なときだからこそ、少し落ち着いて考える時間を持って欲しいです。(これがなかなか難しいのですが…)

 

私が付き添った例もそうでした。

当時の病状で、根治の可能性が高い一番の治療方法は手術でした。

調べたら匡や研究機関のHPでもそう記載されており間違っていません。

よって、主治医は今までの咽頭がん治療の成績として、根治を望むのであれば、一番確率が高いのは手術です、と断言されました。

 

ただ、手術をすると、現在のように自然には声が出なくなること、あとは匂いもわかりにくくなること等、その後の生活への影響がかなりあることがわかりました。

 

他の治療方法は?と尋ねると一応放射線での治療もあるけれど…と説明してくださいましたが、手術が良いと勧められました。

 

そして私が付き添っていたメンターも、先生のおっしゃるとおりにします、と返事をして最初は手術を選択したのです。

 

心の中では葛藤があったのかもしれませんが、ステージ4だということもあり、どこかで医師の選択に沿わなければ死んでしまう、という意識もあったのかもしれません。

 

一方、私は良くも悪くも、家族ではなかったので、少し距離をもって状況を見ることが出来ました。

 

私の知っているメンターは、お洒落であること、格好良くあること、強くあることをとても大切にしていて、食べることにとても興味がある人です。

独身貴族ということもあり、とにかく何でも良いから長生きしたい、というよりは人生を楽しんで、格好良く生きたい、と思っている人でした。

 

咽頭がんのステージ4で手術をすると、声帯をとってしまうので本来の自分の声が出せなくなります。(厳密には機械を使ったりすることで声自体は出すことができますが、手術前の声とは異なります。)

 

その状態になって、私には彼が現在と同じように生活していくイメージはわきませんでした。
人に会うことも嫌がるようになるのでは、日々の楽しみについても制限がかかることが増え、病気が治ったとしても、その後の人生を楽しむ方法を見つけられるかどうか、所謂上記で言う②の答えは手術だとは思えなかったのです。

 

本人が

①の答えが手術、②の答えが手術ではない

とわかっていて決断するのと

①の答えが手術、②の答えは何も考えていない

で決断するのでは、同じ決断を下すにしてもその後の結果(例え手術が上手くいったとしても)に大きな影響を及ぼします。

 

とはいえ、自分で決め、その決断に自分で責任をもつ=どんな結果でも受入れる、というのは、普段から「自分で決める」という経験をしていないと実は難しいのですが、後悔しない人生、を歩むのにとても大切なスキルの一つであり、闘病時には急に必要とされることが多いです。

 

そして患者に併走する家族も、遺された後に後悔しない為に「本人が決めた(本人に決めさせる)」というのは必要だと、遺された今、しみじみと実感しています。